デザイン変更が発表された紙幣について、新聞記事などをまとめてみました。


麻生太郎財務大臣は9日、2024年上半期に1000円札・5000円札・1万円札のデザインを変更すると発表しました。
1万円札には渋沢栄一と東京駅、5千円札には津田梅子と藤の花、千円札には北里柴三郎と葛飾北斎「神奈川沖浪裏」。
肖像においては明治維新の各分野のパイオニアが選出されることになりました。


新紙幣



デザイン変更は2004年以来20年ぶり、1万円の肖像が変わるのは1984年以来40年ぶりです。

財務省は昨年夏から水面下で準備しており、麻生財務大臣は北区にある国立印刷局を視察し、定期的に新デザインにして技術を継承する必要性を説明され変更計画が始まったということです。
前回変更の2004年当時は偽造紙幣の流通が多くなっていたため緊急に準備する必要があり、デザイン発表から発行まで2年でしたが今回は5年をかけることになります。


それ以前でも1984年のデザイン変更では3年前発表なので、それらに比較すると今回は非常に発表が早いといえます
改元、新天皇即位と近接しているため与党の選挙対策、紙幣の政治利用ではないかという推測もありますが、前回の変更では発表から実施まで準備期間が短かったため、自販機などの対応が間に合わなかったなどの混乱もありました。
麻生大臣は
「これまでも偽造紙幣防止のために20年程度で変えてきた。新元号発表に重なったのは偶然」
と説明しました。
財務省は
「印刷に使う原板を作って見本ができるまで2年半、企業が対策を取るにも2年半かかる」
そのため今回の5年前発表は妥当との見方を示しています。
また新紙幣が発行されても旧デザインの紙幣と硬貨は使えますが、「旧デザイン紙幣が使えなくなる」などと騙す詐欺が出てくる可能性があるので財務省は注意を呼びかけています。

政府発表がなされた9日には、紙幣識別機械の企業の株価が跳ね上がりました。
前回2004年の変更では同企業は900億円の特需売上げがあったそうです。
また全国に24,5万台あるといわれるATMの対応や改修で、1,5兆円の特需が生まれるという観測もあります。
しかしキャッシュレスの流れが進む中、実際に発行される5年後にも今と同じ規模で現金が使用されているかどうかは不透明とも言われています。
政府はキャッシュレスを進める方針なので、現金紙幣で経済効果を求めるのは矛盾ともいえますが、キャッシュレスは電気がないと使えないお金です。
災害の多い日本では停電が起きるとキャッシュレスは使えなくなり、そのため日本人の現金使用が薄まることは当分ないであろうという見方もあります。


紙幣肖像に選ばれた各人物の関係者・諸機関は喜びのコメントを発表しました。

北里柴三郎の遠縁に当たり北里柴三郎記念館(熊本県小国町)を運営する北里康三氏は
「福沢諭吉は北里の恩師で、野口英世は北里の教え子。地元では以前から『北里先生を紙幣の顔に』という声があったのでとても嬉しい」
小国町では今でも北里は地域の誇りで、町長の北里耕亮氏はたどれば同じ先祖に行き着くそうです。
同館は以前はは年間1万人を超える来館者がいたが、16年の熊本地震の後は半減しこのたびの採用で再び脚光が当たることを町の皆さんは期待しているとのことです。

また北里は日本医師会の前身である大日本医師会の初代会長を務めたため、日本医師会の横倉義武会長は
「野口英世に続き2代続けて医者が選ばれたことは誇らしい。千円札は一番額面が低い分最もよく使われ、その身近さは医療のあり方に通じる」
との喜びを語りました。

渋沢栄一は日本初の銀行・第一国立銀行(みずほ銀行のルーツ)など500以上の企業の創設に関わり、そのうち帝国ホテルや王子製紙などを含む296の企業が現代でも存続しています。
東証の証券資料ホールには渋沢の写真がかかり「日本近代資本主義の父」と書かれています。

2008年の金融危機の時点で渋沢栄一の「富の社会還元」「持続可能性」といった思想に脚光が当たっていたそうです。
埼玉県深谷市出身の渋沢は埼玉りそな銀行のルーツとなる第八十五国立銀行(建物は現在国の登録有形文化財に指定され川越の観光名所となっている)の顧問だったこともあり、りそなHDでは毎年新入行員研修で渋沢の業績を学ぶ講座を開催しています。

また渋沢は、日韓併合直前の大韓帝国で数年間だけ流通した紙幣の肖像になったことがあります。
渋沢が設立した第一銀行が朝鮮半島に進出し、1902年に頭取だった渋沢の肖像を描いた紙幣を発行しました。
これは韓国では初の紙幣だそうです。
額面は1円・5円・10円の3種類で、韓国政府公認紙幣として流通しましたが韓国総督府初代総監・伊藤博文が民間銀行が銀行券を発行するのは不適当とし、1909年には発行されなくなったといいます。

渋沢紙幣

政府がデザインを発表した翌10日、韓国各紙は渋沢栄一という人選を批判的に報じました。
京城電気(現在の韓国電力の前身の社長を務めて侵略に寄与した・上記の紙幣に肖像が使われた・伊藤博文と親友だったことなどをあげ、韓国の国民感情を刺激するものであるとしています。

今回の変更で引退となる福沢諭吉の地元・大分県中津市の福沢記念館は
「残念ではあるが、福沢先生の一万円札の在位は今年で35年で聖徳太子を抜いて1位。今は使命を果たしたと思っている」
とのコメントを発表しました。